助成金と補助金、併用はできる?|複数申請の可否と効果的な組み合わせ方
「キャリアアップ助成金をもらいながら、IT導入補助金も申請したい」 「複数の助成金を同時に申請したら、不正になるのでは?」 「どの組み合わせなら併用できるのか、ルールが複雑で分からない…」
助成金・補助金を最大限活用したいと考える経営者にとって、「併用」は非常に関心の高いテーマです。一方で、併用に関するルールは複雑で、間違った申請をすると不正受給と見なされるリスクもあります。
実は、助成金・補助金の併用には明確なルールがあり、これを正しく理解すれば、合法的に複数の支援を受けることが可能です。重要なのは、「何が併用可能で、何が不可なのか」を正確に把握することです。
この記事では、助成金専門の社会保険労務士として、併用の可否を判断する基準から、効果的な組み合わせ方、申請時の注意点まで、実務的な観点から詳しく解説します。
【目次】
1.助成金・補助金と補助金、併用はできる?
1-1.併用の基本ルール
助成金・補助金の併用可否は、「同一の経費に対して複数の公的資金を充てることはできない」という大原則に基づいて判断されます。しかし、この原則の解釈と適用は、制度によって異なります。
【併用可否の基本パターン】
パターン | 併用可否 | 具体例 | 注意点 |
異なる経費 | ○ | 人件費助成金+設備補助金 | 経費の明確な区分が必要 |
同一経費 | × | 同じ研修費用に複数申請 | 二重取りは不正受給 |
異なる時期 | ○ | 今年度と来年度で別申請 | 時期の重複に注意 |
異なる対象者 | ○ | Aさんの助成金+Bさんの助成金 | 対象者の明確化必須 |
併用できるケース
以下のような場合は、原則として併用が可能です。
- 異なる経費を対象とする場合
最も一般的な併用パターンです。例えば、人件費を対象とする雇用関係助成金と、設備投資を対象とする補助金は、対象経費が異なるため併用可能です。 - 異なる事業・プロジェクトの場合
A事業で助成金を受給し、B事業で別の補助金を受給することは可能です。ただし、事業の独立性を明確に示す必要があります。 - 国と地方自治体の制度の組み合わせ
国の制度と都道府県・市町村の独自制度は、併用可能な場合が多いです。ただし、自治体によってルールが異なるため、個別確認が必要です。
併用できないケース
以下のような場合は、併用が認められません。
- 同一経費への重複申請
同じ従業員の同じ期間の人件費に対して、複数の助成金を申請することはできません。 - 明示的に併用禁止されている場合
制度の要綱に「他の助成金との併用不可」と明記されている場合は、併用できません。 - 実質的に同一事業とみなされる場合
形式的には別事業でも、実質的に同一事業と判断される場合は、併用が認められません。
1-2.制度別の併用ルール
主要な助成金・補助金の併用ルールを整理します。
雇用関係助成金(厚生労働省)
雇用関係助成金同士の併用は、対象労働者と対象期間が重ならなければ、原則可能です。
【雇用関係助成金の併用例】
組み合わせ | 可否 | 備考 |
キャリアアップ+トライアル雇用 | △ | 同一労働者は不可、別労働者なら可 |
人材開発支援+キャリアアップ | ○ | 訓練と正社員化の組み合わせ |
特定求職者+人材確保等支援 | ○ | 雇入れと職場改善の組み合わせ |
経済産業省系補助金
ものづくり補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金などは、それぞれ対象経費が異なれば併用可能です。
併用時の注意点
- 同一の設備やソフトウェアに複数申請は不可
- 事業計画の整合性が必要
- 各補助金の上限額に注意
1-3.申請時の確認ポイント
併用申請を検討する際は、以下の点を必ず確認します。
- 募集要項の確認
各制度の募集要項に、他の補助金との併用に関する記載を確認します。「併給制限」「他の補助金との関係」などの項目を重点的にチェックします。 - 対象経費の整理
申請する各制度の対象経費を明確に区分し、重複がないことを確認します。経費の按分が必要な場合は、合理的な基準を設定します。 - スケジュールの調整
複数申請する場合、申請時期、実施時期、報告時期などのスケジュールが重複しないよう調整が必要です。 - 事前相談の活用
併用の可否が不明確な場合は、必ず事前に各制度の窓口に相談します。口頭だけでなく、可能な限り文書で回答をもらうことが重要です。
2.陥りやすいミスと対策
2-1.併用申請でよくある失敗
併用申請で陥りやすい典型的な失敗パターンを解説します。
経費の重複計上
最も多いミスが、同一経費を複数の制度に計上してしまうケースです。
失敗例 新入社員の教育研修費用30万円を、キャリアアップ助成金と人材開発支援助成金の両方に計上し、二重取りと判断された。
対策
- 経費管理表を作成し、どの経費をどの制度に申請するか明確化
- 会計システムで補助金別に経費を管理
- 税理士等と連携し、経理処理を適正化
申告漏れ・虚偽申告
他の助成金の受給状況を正確に申告しないケースも問題となります。
【申告時のチェックリスト】
確認項目 | チェック内容 |
過去の受給歴 | 過去3年間の全受給歴を整理 |
現在申請中 | 申請中・審査中の案件をリスト化 |
今後の予定 | 申請予定の制度を明確化 |
関連会社 | グループ会社の受給状況も確認 |
時期の重複
事業実施期間が重複することで、併用不可と判断されるケースがあります。
失敗例 4月から9月まで実施する事業に対して、A補助金(4-9月対象)とB補助金(7-12月対象)を申請し、7-9月の重複期間が問題となった。
対策
- 各制度の事業期間を正確に把握
- 重複期間がある場合は事前に調整
- 必要に応じて事業期間の変更申請
2-2.制度理解の不足による失敗
制度の詳細を理解せずに申請し、後で問題となるケースです。
よくある誤解
- 「少額なら併用してもバレない」→必ず発覚し、ペナルティの対象に
- 「後から返せばいい」→不正受給と認定される可能性
- 「知らなかった」→申請者の責任、救済されない
対策
- 制度説明会への参加
- Q&Aの熟読
- 専門家への相談
- 他社事例の研究
リスク管理の方法
併用申請には特有のリスクがあり、適切な管理が必要です。
文書管理の徹底
併用申請では、通常以上に厳格な文書管理が求められます。
管理すべき文書
- 各制度の申請書類一式
- 経費の内訳と按分根拠
- 事前相談の記録
- 制度間の調整に関する文書
内部統制の強化
複数の制度を同時に管理するため、社内体制の整備が重要です。
体制整備のポイント
- 助成金担当者の明確化
- 申請状況の一元管理
- ダブルチェック体制
- 定期的な進捗確認
3.成功率を上げる工夫
3-1.効果的な組み合わせパターン
実績から見た、成功率の高い併用パターンを紹介します。
【効果的な併用パターン例】
パターン | 組み合わせ例 | 相乗効果 |
人材強化型 | キャリアアップ助成金+人材開発支援助成金 | 採用と育成の同時強化 |
設備投資型 | ものづくり補助金+業務改善助成金 | 設備導入と賃金向上 |
IT活用型 | IT導入補助金+働き方改革推進支援助成金 | デジタル化と生産性向上 |
地域活性型 | 地域雇用開発助成金+自治体独自制度 | 雇用創出と地域貢献 |
3-2.戦略的な申請計画
併用を成功させるには、戦略的な計画立案が不可欠です。
年間計画の立案
年度初めに、1年間の助成金・補助金活用計画を立てます。
計画立案のステップ
- 自社の課題と目標の明確化
- 活用可能な制度の洗い出し
- 併用可能性の検討
- 申請スケジュールの作成
- 必要リソースの確保
3-3.段階的実施アプローチ
一度に多くの制度に申請するのではなく、段階的に進めることで成功率が向上します。
推奨される進め方
- 第1四半期:基盤となる助成金の申請
- 第2四半期:補完的な制度の追加申請
- 第3四半期:実施と中間管理
- 第4四半期:成果確認と次年度計画
3.4.専門家活用のメリット
併用申請は複雑なため、専門家の活用が特に有効です。
専門家に相談すべきタイミング
- 併用可否の判断時
- 申請書類の作成時
- トラブル発生時
- 会計検査対応時
3-5.成功事例の紹介
実際の併用成功事例から、ポイントを学びます。
事例1:製造業での総合的活用 従業員30名の製造業C社は、以下の組み合わせで年間800万円の支援を獲得。
- キャリアアップ助成金:パート5名の正社員化
- ものづくり補助金:新型加工機の導入
- 人材開発支援助成金:技術研修の実施
成功のポイント 各制度の対象を明確に分離し、経費管理を徹底。事前に労働局と中小企業庁に併用可能性を確認。
事例2:サービス業でのIT化推進 従業員15名のサービス業D社は、デジタル化を軸に複数制度を活用。
- IT導入補助金:顧客管理システム導入
- 働き方改革推進支援助成金:テレワーク環境整備
- 地方自治体のDX推進補助金:追加機能開発
成功のポイント 「デジタル化による生産性向上」という一貫したストーリーで、各制度の相乗効果を実現。
4.まとめ
助成金と補助金の併用について解説してきました。重要なポイントを整理します。
併用の可否は「同一経費への重複申請禁止」が大原則です。この原則を理解し、対象経費を明確に区分することが併用の前提条件となります。
制度ごとに併用ルールが異なります。必ず各制度の要綱を確認し、不明な点は事前相談で確認することが重要です。
併用にはリスクが伴います。経費の重複計上、申告漏れ、時期の重複など、通常申請以上に注意が必要です。
戦略的な計画と適切な管理が成功の鍵です。年間計画の立案、段階的な実施、専門家の活用により、リスクを抑えながら最大限の効果を得ることができます。
助成金・補助金の併用は、適切に行えば企業成長の大きな推進力となります。しかし、ルールを逸脱すれば不正受給となり、企業の信用を失うことにもなりかねません。
この記事で紹介したルールとポイントを踏まえ、正しい併用申請を行うことで、複数の公的支援を有効活用し、事業の発展につなげていただければ幸いです。
併用申請は確かに複雑ですが、その分、成功した時の効果は大きなものとなります。ぜひ積極的にチャレンジしていただきたいと思います。
※本記事の内容は2025年1月時点の情報に基づいています。制度の併用ルールは変更される可能性がありますので、申請時は必ず最新情報をご確認ください。