税金の滞納があると申請できない?|助成金と税金滞納の関係を徹底解説
「法人税を分納中だけど、助成金は申請できるのだろうか…」 「消費税の納付が遅れてしまった。これで助成金は諦めるしかない?」 「過去に税金を滞納したことがある。もう二度と助成金は受けられない?」
資金繰りに悩む経営者の方から、このような税金滞納に関する相談を頻繁に受けます。特に中小企業においては、売上の変動や取引先の支払い遅延などにより、一時的に税金の納付が困難になることは珍しくありません。そんな中で、経営改善の一助として助成金を活用したいと考えるのは、むしろ自然なことです。
結論から申し上げると、税金滞納がある場合の助成金申請については、その種類、金額、理由、現在の対応状況などによって、可否が大きく変わってきます。重要なのは、自社の状況を正確に把握し、適切な対策を講じることです。
この記事では、助成金専門の社会保険労務士として、税金滞納と助成金の関係について、実務的な視点で詳しく解説します。どのような税金がどの程度影響するのか、滞納がある場合の対処法、そして誤解されやすいポイントについて、具体例を交えながら説明していきます。
【目次】
1.税金の滞納があると申請できない?
1-1.助成金における税金滞納の扱い
助成金申請において、税金滞納がどのように扱われるかは、助成金の種類と滞納している税金の種類によって大きく異なります。まず大前提として理解すべきは、助成金は公的資金であり、その原資の多くは税金や社会保険料だということです。
厚生労働省所管の雇用関係助成金では、共通要件として「労働保険料を滞納していないこと」が明記されています。これは絶対的な要件であり、労働保険料に滞納がある場合は、他の条件をどれだけ満たしていても助成金は支給されません。
一方、法人税や消費税などの国税、事業税や住民税などの地方税については、助成金の要件として明示的に「滞納していないこと」と記載されているケースは多くありません。しかし、これは「滞納していても大丈夫」という意味ではないのです。
1-2.影響する税金の種類と程度
税金滞納の助成金への影響を、税金の種類別に整理すると以下のようになります。
【税金滞納の助成金への影響度】
税金の種類 | 影響度 | 詳細な影響 |
労働保険料 | 致命的 | 滞納があれば即不支給 |
社会保険料 | 重大 | 実質的に不支給となる可能性大 |
源泉所得税 | 中程度 | 審査で不利になる可能性 |
法人税・消費税 | 軽度~中程度 | 間接的な影響あり |
地方税 | 軽度 | 直接的な影響は少ない |
労働保険料の滞納 労働保険料(労災保険料・雇用保険料)の滞納は、助成金申請において最も致命的です。これは助成金の財源が雇用保険料であることから、当然の要件といえます。たとえ1円でも滞納があれば、助成金は支給されません。
社会保険料の滞納 健康保険料・厚生年金保険料の滞納も、実質的に助成金申請を困難にします。多くの助成金で「労働・社会保険の適正加入」が要件となっており、保険料滞納は適正加入とは認められません。
その他の税金の滞納 法人税、消費税、源泉所得税などの滞納は、直接的な不支給要件ではありませんが、企業の信用度や経営状態の評価に影響します。特に、大型の助成金や競争的な助成金では、審査で不利になる可能性があります。
1-3.審査でチェックされるポイント
助成金の審査において、税金滞納に関して以下のような点がチェックされます。
滞納の有無と金額 まず確認されるのは、滞納の有無とその金額です。労働保険料については、労働局のシステムで即座に確認可能です。社会保険料も、関係機関との連携により確認されます。
滞納の理由と経緯 なぜ滞納に至ったのか、その理由も重要な判断材料となります。一時的な資金繰りの問題なのか、慢性的な経営不振なのかで、評価は大きく変わります。
現在の対応状況 滞納がある場合でも、現在どのような対応をしているかが重視されます。分納計画に基づいて着実に納付している場合と、督促を無視している場合では、全く異なる評価となります。
今後の改善見込み 助成金を受給することで、滞納解消の見込みがあるかどうかも判断材料となります。助成金を経営改善に活用し、結果として納税能力を回復させる計画があれば、前向きに評価される可能性があります。
1-4.滞納があっても申請できるケース
原則として税金滞納は助成金申請にマイナスですが、以下のような場合は申請の可能性が残されています。
分納計画に基づく納付中 税務署や年金事務所と正式な分納計画を締結し、計画どおりに納付している場合は、「滞納なし」と同等に扱われることがあります。ただし、これは労働保険料以外の税金に限られます。
一時的な滞納の解消後 過去に滞納があっても、申請時点で完納していれば問題ありません。重要なのは、申請時点での状況です。
労働保険料以外の軽微な滞納 労働保険料以外の税金で、金額が軽微かつ納付の意思が明確な場合は、助成金申請が認められる可能性があります。ただし、これはケースバイケースで判断されます。
2.よくある誤解の背景
【税金滞納に関する誤解と真実】
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誤解1:労働保険料以外は関係ない 誤解:労働保険料さえ払っていれば、他の税金は滞納しても大丈夫 真実:他の税金滞納も企業の信用度評価に影響する
誤解2:少額なら問題ない 誤解:数万円程度の滞納なら見逃してもらえるだろう 真実:労働保険料は1円でも滞納があれば不支給
誤解3:分納していれば大丈夫 誤解:分納計画があれば滞納扱いにならない 真実:労働保険料は分納中でも滞納扱い
誤解4:過去の滞納は時効がある 誤解:何年か経てば過去の滞納は問題にならない 真実:滞納の履歴は信用情報として残る可能性 ――――――――――――――――――――――――――――――
これらの誤解は、税金の種類による扱いの違いを正確に理解していないことから生じています。特に、労働保険料の扱いが他の税金と異なることを認識していないケースが多く見られます。
3.専門家の見解
3-1.税金滞納企業への実務的アドバイス
助成金専門の社会保険労務士として、税金滞納を抱える企業から多くの相談を受けてきました。その経験から申し上げると、税金滞納がある企業こそ、助成金を活用した経営改善が必要なのですが、そのためには戦略的なアプローチが不可欠です。
まず重要なのは、「隠さない」ことです。税金滞納を隠して助成金申請しても、必ず発覚します。むしろ、現状を正直に開示し、改善計画を示すことで、理解を得られる可能性があります。
3-2.リスクとチャンスの見極め方
税金滞納がある状況での助成金申請は、リスクとチャンスの両面があります。
リスク面 ・申請が却下される可能性 ・既受給分の返還請求リスク ・税務調査のきっかけになる可能性
チャンス面 ・経営改善の原資確保 ・従業員の雇用維持 ・取引先への信用回復
重要なのは、これらのリスクとチャンスを正確に評価し、自社にとって最適な判断をすることです。
3-3.滞納解消への戦略的アプローチ
税金滞納を解消し、助成金を活用できる体制を作るための戦略的アプローチをご提案します。
第1段階:現状の正確な把握 ・全ての滞納税金をリストアップ ・滞納金額と延滞税の確認 ・納付可能額の算定
第2段階:優先順位の設定 ・労働保険料を最優先で解消 ・社会保険料を次に優先 ・その他の税金は計画的に対応
第3段階:関係機関との交渉 ・税務署、年金事務所への相談 ・分納計画の締結 ・助成金申請の意向を伝える
第4段階:助成金活用計画の策定 ・申請可能な助成金の選定 ・受給見込額の試算 ・経営改善計画への組み込み
助成金を活用した経営改善
税金滞納がある企業が助成金を活用する際は、単なる資金確保ではなく、根本的な経営改善につなげることが重要です。
生産性向上による収益改善 助成金を活用して設備投資や人材育成を行い、生産性を向上させることで、収益構造を改善します。
雇用の質の向上 正社員化や処遇改善により、従業員のモチベーションを高め、結果として業績向上につなげます。
財務体質の強化 助成金による資金を、単に滞納解消に充てるのではなく、将来の納税能力向上につながる投資に活用します。
4.具体的な事例
事例1:消費税滞納からの復活(製造業C社)
【事例1の概要】 ――――――――――――――――――――――――――――――
背景:売上減少により消費税300万円を滞納 労働保険料は完納、従業員の雇用は維持
対策:①税務署と分納計画を締結(月額25万円×12回) ②業務改善助成金で生産設備を更新 ③キャリアアップ助成金で有期社員を正社員化
結果:・助成金総額250万円を受給 ・生産性30%向上で収益改善 ・1年で滞納を完済 ・優秀な人材の定着に成功 ――――――――――――――――――――――――――――――
ポイント 労働保険料を優先的に完納していたことで、助成金申請の道が開けました。助成金を単なる資金確保ではなく、生産性向上の投資に活用したことが成功の鍵でした。
事例2:複数税目滞納からの脱却(サービス業D社)
【事例2の概要】 ――――――――――――――――――――――――――――――
背景:法人税、消費税、社会保険料など総額500万円を滞納 このままでは事業継続が困難な状況
対策:①労働保険料のみ借入金で一括返済 ②他の滞納は各機関と分納交渉 ③人材開発支援助成金で従業員スキルアップ ④新サービス開発で売上拡大
結果:・助成金で研修費用の大半をカバー ・新サービスが好調で売上50%増 ・2年で全ての滞納を解消 ・現在は健全経営を維持 ――――――――――――――――――――――――――――――
ポイント 労働保険料だけは何としても完納することで、助成金活用の可能性を残しました。助成金を活用した人材育成が、新たな収益源の開発につながった好例です。
5.まとめ
税金滞納と助成金の関係について解説してきました。重要なポイントを整理します。
労働保険料の滞納は致命的です。これだけは絶対に避けなければなりません。他の税金と異なり、分納中でも滞納扱いとなり、助成金は一切受給できません。
その他の税金滞納も無視できません。直接的な不支給要件でなくても、企業の信用度評価に影響し、審査で不利になる可能性があります。
戦略的な対応が可能です。滞納がある場合でも、優先順位を明確にし、計画的に対応することで、助成金活用の道を開くことができます。
助成金は経営改善のツールです。単なる資金確保ではなく、根本的な経営改善につなげることで、滞納解消と事業発展の両立が可能です。
税金滞納は確かに助成金申請のハードルとなりますが、それで全てを諦める必要はありません。現状を正確に把握し、適切な対策を講じることで、必ず道は開けます。
重要なのは、一人で悩まず、専門家や関係機関に相談することです。税務署も年金事務所も、真摯に相談すれば必ず対応してくれます。助成金を活用した経営改善で、健全な経営体質を取り戻しましょう。
※本記事の内容は2025年1月時点の情報に基づいています。制度は変更される可能性がありますので、実際の申請時は最新情報をご確認ください。