業務改善助成金の「落とし穴」完全ガイド|申請前に知っておくべき3つのポイント

  • 【目次】
  1. 落とし穴1: 職場内の「最低賃金額」に関する思わぬ制約
  2. 落とし穴2: 実は誰でも買えない「汎用性の高い物品」
  3. 落とし穴3: 地域で違う?事務局対応の「理不尽な実態」
  4. まとめ:落とし穴を回避し、確実に助成金を受給するためのチェックリスト

落とし穴1: 職場内の「最低賃金額」に関する思わぬ制約

1-1. 申請要件の大前提

業務改善助成金を申請するための大前提として、事業場内で最も時給の低い従業員の賃金が、「地域別最低賃金+50円以内」でなければなりません。この要件を満たさない場合、そもそも申請のスタートラインに立つことすらできません。

1-2. 具体的な失敗例

例: 10月からの新しい最低賃金が時給1,000円になる地域の場合
あるサービス業のA社では、職場のエースであるAさんの時給が2,000円、一番時給の低いアルバイトBさんの時給が1,051円でした。この場合、Bさんの時給が「最低賃金1,000円+50円=1,050円」を超えているため、A社はそもそも申請の対象外となってしまいます。
このような状況は、特に長年同じスタッフを雇用している事業所や、地域の最低賃金の上昇に合わせて給与体系を見直していない事業所で起こりがちです。

1-3. 賃上げ後の見落としがちな制約

さらに重要なのが、賃上げを実施した後の制約です。専門家が特に注意を促しているのが、以下の2点です。
対象者の制約
賃上げの対象となるのは、雇い入れてから6ヶ月以上経過している従業員に限られます。つまり、入社して間もないスタッフは、たとえ最低賃金に近い時給であっても、助成金の対象にはなりません。
賃上げ後の新規雇用の制約
これが最も見落とされがちなポイントです。一度賃金を引き上げると、その金額よりも低い時給で新しく人を雇うことができなくなります。 例えば、助成金を活用してアルバイトの時給を1,000円から1,050円に引き上げた場合、その後に新しく採用するアルバイトの時給も、最低1,050円以上に設定しなければなりません。
補助金専門家は、「目先の助成金のために安易に賃上げを約束してしまうと、その後の採用計画にまで影響が及ぶ可能性がある、ということです。賃上げ後の経営計画までしっかり見据えて計画を立てることが、本当に重要かなと思います」と警告しています。

1-4. 専門家からのワンポイントアドバイス: 9月中に賃上げを実施する

ここで、非常に重要なテクニックをご紹介します。それは、「最低賃金が改定される10月より前の、9月中に賃上げを実施する」 という方法です。
なぜ9月中が有利なのか
業務改善助成金は「賃上げを実施した時点」の地域別最低賃金を基準に考えます。つまり、9月中に賃上げを行えば、まだ基準の低い「改定前の最低賃金」から30円なり50円なりの引き上げで済むのです。これにより、会社の負担を最小限に抑えつつ、助成金の要件を満たすことができます。
一方、10月1日を過ぎると、自動的に引き上げられた新しい最低賃金を基準に、そこからさらに賃上げをしなければならないため、負担が大きくなってしまいます。
専門家は、「もし活用を決めているのであれば、この『9月実行』は絶対に覚えておいてください」と強調しています。

落とし穴2: 実は誰でも買えない「汎用性の高い物品」

2-1. 原則として対象外となる物品

業務改善助成金では、パソコン、スマートフォン、社用車といった、いわゆる「汎用性が高く」、他の目的にも使えてしまう物品は、原則として助成の対象になりません。

2-2. なぜ対象外なのか

これは補助金・助成金の大原則である「事業とプライベートの区別がつきにくいもの」は対象外とされることが多いためです。例えば、パソコンは業務にも使えますが、個人的な用途にも使える可能性があります。そのため、公的資金である助成金の対象としては適切でないと判断されるのです。

2-3. 失敗事例

例: 飲食店B社のケース
B社は、従業員の業務効率化のために、タブレット端末を導入しようと考えました。注文管理や在庫管理をデジタル化することで、業務時間を短縮し、その分の人件費を賃上げに回すという計画でした。しかし、申請時に「タブレットは汎用性が高い」という理由で対象外と判断され、計画の見直しを余儀なくされました。

2-4. 例外: 「特例事業者」制度

ただし、ここに例外があります。「最近、経営が厳しい状況にある事業者」であれば、特例としてパソコンなどの導入も認められる のです。
特例事業者の要件(いずれかを満たす必要がある)
1.売上の減少
直近3ヶ月の平均売上高などが、過去3年間のいずれかの年の同じ月と比べて15%以上減少している
2.利益率の減少
原材料費の高騰といった外的要因により、直近3ヶ月間のうち任意の1ヶ月の利益率が3%以上減少している

2-5. 対策

専門家は、「多くの事業者が『まさにこれが欲しかった』と思うような物品ほど、実はこうした厳しい要件が課せられているんです。ご自身の会社がこの『特例事業者』に当てはまるかどうか、申請前に必ず確認してくださいね」とアドバイスしています。
申請前に、自社の売上や利益率の推移を確認し、特例事業者の要件を満たしているかどうかを客観的なデータで示せるように準備しておくことが重要です。

落とし穴3: 地域で違う?事務局対応の「理不尽な実態」

3-1. 事務局対応のバラつき

業務改善助成金の審査を担当するのは、各都道府県の労働局です。しかし、担当する都道府県や労働局によって対応にかなり差がある、というのが実情です。これは、審査を行う各都道府県の労働局によって、解釈や運用のローカルルールが存在するためだと考えられます。

3-2. 実際のトラブル事例

事例1: 要領と違うことを言われた
業務改善助成金は、本社や支店など「事業所ごと」に申請が可能です。しかし、ある事業者が事務局に電話したところ、「1法人につき1申請(事業者ごと)しかできません」と誤った説明をされました。この事業者は、本来できたはずの複数申請の機会を失いかけたのです。
専門家は、「これは本当に大きな機会損失ですよね」とコメントしています。
事例2: 記載のない書類を求められた
公募要領には書かれていないにもかかわらず、見積書を提出した後に「なぜその業者を選んだのか、理由書を提出してください」と、後から追加の書類を求められるケースがあります。ただでさえ忙しい中、こうした不意打ちの要求は、申請のスケジュールを大きく狂わせます。
事例3: 不正を疑われた
相見積もりを取って、一番安い価格を提示してくれた誠実な業者を選んで申請したにもかかわらず、「定価より安すぎる。不正の疑いがある」と指摘され、申請が進まなかったというケースもあります。
専門家は、「安く抑えようと努力した結果、不正を疑われるというのは、あまりにも、もったいないですよね」と語っています。

3-3. 対策

このような理不尽な対応に備えるためには、以下の対策が有効です。
公募要領を熟読し、証拠を残す
公募要領に記載されている内容を正確に理解し、自社の申請がそれに沿っているかを確認します。
事務局とのやり取りは、できるだけメールなど記録に残る形で行い、口頭での説明も後で文書化しておくことが重要です。
不明点は必ず事前に確認
申請前に不明点があれば、必ず事務局に確認し、その回答を記録しておきます。
複数の事務局担当者に確認することで、回答の一貫性をチェックすることも有効です。
専門家に相談する
地域のローカルルールに詳しい専門家(社会保険労務士や中小企業診断士など)に相談することで、事前にリスクを回避できる可能性が高まります。

まとめ:落とし穴を回避し、確実に助成金を受給するためのチェックリスト

業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者にとって非常に有効な制度ですが、申請や受給の過程には、いくつかの見落としがちな「落とし穴」が存在します。最後に、これらの落とし穴を回避し、確実に助成金を受給するためのチェックリストをまとめました。
チェック項目
確認内容
最低賃金の要件
□ 事業場内で最も時給の低い従業員の賃金が「地域別最低賃金+50円以内」か?
賃上げ対象者
□ 賃上げ対象者は雇い入れから6ヶ月以上経過しているか?
賃上げ後の制約
□ 賃上げ後、その金額より低い時給で新規雇用できないことを理解しているか?
賃上げのタイミング
□ 9月中に賃上げを実施することで負担を最小限に抑えられるか検討したか?
汎用性の高い物品
□ パソコン、スマートフォン、社用車などを申請する場合、特例事業者の要件を満たしているか?
特例事業者の要件
□ 売上15%以上減少、または利益率3%以上減少を客観的なデータで示せるか?
事務局対応
□ 公募要領を熟読し、不明点は事前に事務局に確認したか?
証拠の記録
□ 事務局とのやり取りを記録に残しているか?
これらのポイントを一つひとつ丁寧に確認し、計画をブラッシュアップすることで、助成金受給の可能性は大きく高まるはずです。ぜひ、諦めずに挑戦してください。

補助金・助成金申請でお困りの方へ

補助金・助成金の申請は、制度の選定から事業計画書の作成、必要書類の準備まで、多くの専門知識と時間を要します。特に、要件の確認や数値目標の根拠づけ、実績報告など、細かなルールを正確に理解し、実行することが求められます。
実は、多くの社会保険労務士は助成金には詳しくても、補助金の申請支援については十分な経験やノウハウを持っていないケースが少なくありません。 また、助成金と補助金では制度の目的も申請プロセスも大きく異なるため、それぞれに特化した専門性が必要です。
当センターでは、各種補助金・助成金の申請支援において、豊富な実績とノウハウを持つ専門家が、あなたの事業計画の策定から申請書類の作成、採択後のフォローまで、一貫してサポートいたします。
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