助成金申請でよくある失敗10選
助成金は企業の人材育成や労働環境改善を支援する重要な制度です。しかし、申請書類の不備や手続きミスにより、せっかくの支援を受けられない企業が数多く存在します。
厚生労働省の統計によると、助成金申請の約30%が書類不備等の理由で受理されていません。また、受理されても審査段階で落とされるケースも少なくありません。これらの失敗は、適切な知識と準備があれば十分に防げるものです。
助成金申請の失敗は、単に資金を得られないだけでなく、以下のような深刻な影響をもたらします:
– 機会損失: 計画していた研修や設備投資が遅れる
– 時間的損失: 申請準備にかけた時間が無駄になる
– 信頼性の低下: 次回申請時の印象に悪影響を与える可能性
– 社内モチベーションの低下: 従業員の期待を裏切ることになる
本記事では、助成金申請でよくある失敗パターンを10個に分類し、それぞれの原因と対策を詳しく解説します。人事担当者として初めて助成金申請に取り組む方も、これらのポイントを押さえることで成功確率を大幅に向上させることができます。
【目次】
- 失敗1: 申請期限を過ぎてしまう
- 失敗2: 必要書類の不備・漏れ
- 失敗3: 助成金の対象要件を満たしていない
- 失敗4: 計画書の内容が不十分
- 失敗5: 実施期間中の進捗管理ができていない
- 失敗6: 支給申請時の証拠書類不足
- 失敗7: 労働関係法令違反がある
- 失敗8: 社内での情報共有・連携不足
- 失敗9: 専門家への相談タイミングが遅い
- 失敗10: 助成金制度の理解不足
- 失敗を避けるための包括的対策
- まとめ
- 助成金申請成功のためのチェックリスト
1.失敗1: 申請期限を過ぎてしまう
1-1.失敗の実例
A社の人事担当者は、キャリアアップ助成金の申請を検討していました。しかし、社内での稟議や書類準備に時間がかかり、気がついたときには申請期限が過ぎていました。結果として、予定していた従業員研修のための50万円の助成金を受けることができませんでした。
1-2.失敗の原因
– 申請期限の把握不足
– 社内手続きの時間を考慮していない
– 書類準備の所要時間を過小評価
– 余裕をもったスケジュール設定ができていない
1-3.対策
期限管理の徹底
– 申請期限の3ヶ月前からスケジュールを立てる
– 社内カレンダーに申請期限を明記
– 毎月1日に助成金の期限確認を行う習慣をつける
社内体制の整備
– 申請に必要な部署(経理、総務、現場)との連携体制を構築
– 稟議書の承認ルートを事前に確認
– 緊急時の承認手続きを明確化
2.失敗2: 必要書類の不備・漏れ
2-1.失敗の実例
B社は人材開発支援助成金を申請しましたが、研修カリキュラムの詳細が不十分で、研修機関との契約書に不備がありました。補正の機会が与えられましたが、結局期限内に完璧な書類を揃えることができず、申請が却下されました。
2-2.失敗の原因
– 必要書類のチェックリスト未作成
– 書類の記載内容の理解不足
– 関連書類の整合性確認の怠り
– 最終確認の手順が不十分
2-3.対策
書類管理の体系化
– 助成金ごとに必要書類一覧を作成
– 書類の記載例を収集・保管
– 提出前の複数人チェック体制を確立
記載内容の品質向上
– 申請書の各項目について、記載のポイントを文書化
– 過去の成功事例を参考資料として保管
– 専門家による事前チェックを実施
3.失敗3: 助成金の対象要件を満たしていない
3-1.失敗の実例
C社は両立支援等助成金を申請しようとしましたが、実際には育児休業制度の整備が不十分で、就業規則の改定も行われていませんでした。申請書類を作成する段階で、そもそも対象要件を満たしていないことが判明しました。
3-2.失敗の原因
– 助成金の対象要件の確認不足
– 自社の現状把握が不十分
– 事前準備期間の不足
– 要件の詳細な理解ができていない
3-3.対策
要件確認の徹底
– 申請検討時に必ず要件チェックシートを作成
– 自社の現状と要件のギャップを明確化
– 要件を満たすための改善計画を策定
事前準備の充実
– 助成金申請の6ヶ月前から準備開始
– 社内制度の整備状況を定期的に確認
– 就業規則等の見直しを計画的に実施
4.失敗4: 計画書の内容が不十分
4-1.失敗の実例
D社は人材開発支援助成金の申請で、研修計画書を提出しましたが、研修の目的や期待される効果が曖昧で、具体的な成果指標も設定されていませんでした。審査で「計画の実効性に疑問がある」と判断され、不採択となりました。
4-2.失敗の原因
– 計画書の重要性に対する認識不足
– 具体的な目標設定ができていない
– 効果測定の方法が不明確
– 計画の実現可能性を検証していない
4-3.対策
計画書作成の標準化
– 計画書のテンプレートを作成
– 目標設定の方法を明文化
– 効果測定指標の設定基準を策定
計画の品質向上
– 関係部署との事前協議を実施
– 計画の実現可能性を多角的に検証
– 外部専門家による計画書レビューを実施
5.失敗5: 実施期間中の進捗管理ができていない
5-1.失敗の実例
E社は特定求職者雇用開発助成金を受給していましたが、対象従業員の労働時間管理が不十分で、要件である「週20時間以上の勤務」を満たせない期間がありました。事後の確認で発覚し、助成金の一部返還を求められました。
5-2.失敗の原因
– 実施期間中の管理体制未整備
– 要件の継続的な遵守への意識不足
– 進捗チェックの仕組みがない
– 問題発生時の対応策が不明確
5-3.対策
進捗管理体制の構築
– 月次での進捗確認会議を設定
– 要件遵守状況のチェックシートを作成
– 問題発生時の報告・対応手順を明確化
継続的な監視体制
– 関係部署との定期的な情報共有
– 要件遵守状況の記録・保管
– 改善が必要な場合の迅速な対応
6.失敗6: 支給申請時の証拠書類不足
6-1.失敗の実例
F社は人材開発支援助成金で研修を実施しましたが、支給申請時に研修実施の証拠書類が不十分でした。出席簿はあったものの、研修内容を証明する資料や、実際に研修が行われたことを示す写真等がなく、支給決定が遅れました。
6-2.失敗の原因
– 証拠書類の要件理解不足
– 実施中の記録保管意識の欠如
– 支給申請に必要な書類の事前確認不足
– 書類の整理・保管体制の不備
6-3.対策
証拠書類の体系的管理
– 支給申請に必要な証拠書類一覧を作成
– 実施期間中の記録保管ルールを明確化
– 写真撮影や議事録作成の標準手順を策定
書類保管の徹底
– 助成金関連書類の専用ファイルを作成
– 電子データと紙媒体の両方で保管
– 保管期限と廃棄手順を明確化
7.失敗7: 労働関係法令違反がある
7-1.失敗の実例
G社は雇用調整助成金を申請しましたが、過去に労働基準監督署から是正勧告を受けており、その改善が完了していませんでした。申請時の審査で法令違反が発覚し、申請が却下されました。
7-2.失敗の原因
– 労働関係法令の遵守状況確認不足
– 過去の是正勧告への対応不備
– 法令遵守体制の整備不足
– 申請前のコンプライアンス チェック未実施
7-3.対策
法令遵守体制の強化
– 労働関係法令の遵守状況を定期的に確認
– 過去の是正勧告等への対応状況を記録
– 社会保険労務士等専門家による定期監査を実施
申請前チェックの徹底
– 申請前に必ず法令遵守状況を確認
– 問題がある場合は改善完了後に申請
– 関連する行政機関との関係を良好に保つ
8.失敗8: 社内での情報共有・連携不足
8-1.失敗の実例
H社では人事部が助成金申請を進めていましたが、経理部との連携が不十分で、必要な財務データの提供が遅れました。また、現場の管理職が助成金の内容を理解しておらず、実施期間中の協力が得られませんでした。
8-2.失敗の原因
– 部署間の連携体制未整備
– 助成金申請に関する情報共有不足
– 関係者の役割分担が不明確
– 社内コミュニケーション不足
8-3.対策
社内連携体制の構築
– 助成金申請に関わる部署の役割分担を明確化
– 定期的な連絡会議を設定
– 情報共有のためのツールを整備
関係者の理解促進
– 助成金制度に関する社内説明会を実施
– 申請から受給までの流れを文書化
– 関係者向けのマニュアルを作成
9.失敗9: 専門家への相談タイミングが遅い
9-1.失敗の実例
I社は複雑な助成金申請を自力で進めようとしましたが、申請期限の直前になって行き詰まり、慌てて社会保険労務士に相談しました。しかし、既に期限まで時間がなく、十分な準備ができないまま申請することになり、結果として不採択となりました。
9-2.失敗の原因
– 専門家への相談タイミングの判断ミス
– 自力で対応できる範囲の見極め不足
– 専門家の活用メリットへの理解不足
– 相談費用を過度に気にしすぎる
9-3.対策
適切な相談タイミングの設定
– 助成金検討の初期段階で専門家に相談
– 複雑な案件は必ず専門家のサポートを受ける
– 定期的な相談関係を構築
専門家との効果的な連携
– 信頼できる専門家のネットワークを構築
– 相談内容を事前に整理して効率的に進める
– 長期的な関係を前提とした付き合い方を心がける
10.失敗10: 助成金制度の理解不足
10-1.失敗の実例
J社は「助成金は申請すれば必ずもらえる」と思い込んでおり、十分な準備をせずに申請しました。実際には厳格な審査があることを理解しておらず、基本的な要件すら満たしていない状態で申請し、当然のように却下されました。
10-2.失敗の原因
– 助成金制度への基本的な理解不足
– 申請と給付の違いを理解していない
– 審査の厳格さに対する認識不足
– 情報収集の方法が不適切
10-3.対策
制度理解の徹底
– 助成金制度の基本的な仕組みを学習
– 申請要件と審査基準を詳細に把握
– 成功事例と失敗事例の両方を研究
継続的な情報収集
– 厚生労働省等の公式情報を定期的に確認
– 専門誌やセミナーで最新情報を収集
– 同業他社の事例を参考にする
11.失敗を避けるための包括的対策
11-1. 体系的な準備プロセスの構築
計画段階での対策
– 助成金申請の年間スケジュールを作成
– 各助成金の要件と自社の適合性を事前評価
– 申請に必要なリソース(人員、時間、費用)を算出
実行段階での対策
– 申請書類作成の標準プロセスを確立
– 複数人による書類チェック体制を構築
– 進捗管理のための定期的な確認会議を設定
11-2. 社内体制の整備
専門チームの編成
– 助成金申請専門チームを設置
– 各部署からの協力者を明確化
– 外部専門家との連携体制を構築
知識・スキルの向上
– 担当者の継続的な研修を実施
– 助成金に関する社内マニュアルを整備
– 成功事例の共有と活用
11-3. リスク管理の徹底
事前リスク評価
– 申請前にリスク要因を洗い出し
– 対応策を事前に準備
– 想定される問題への対処方法を明確化
継続的なモニタリング
– 実施期間中の要件遵守状況を定期確認
– 問題発生時の迅速な対応体制を構築
– 改善点の継続的な見直しを実施
12.まとめ
助成金申請の失敗は、多くの場合、基本的な準備不足や理解不足が原因です。しかし、これらの失敗パターンを理解し、適切な対策を講じることで、成功確率を大幅に向上させることができます。
特に重要なのは以下の点です:
1.早期からの準備: 申請期限の3ヶ月前から準備を開始
2.要件の完全理解: 助成金の対象要件を詳細に把握
3.体系的な書類管理: 必要書類のチェックリストを作成し、漏れを防止
4.社内連携の強化: 関係部署との密接な連携体制を構築
5.専門家の活用: 複雑な案件は早期に専門家に相談
6.継続的な管理: 実施期間中の進捗管理を徹底
7.法令遵守: 労働関係法令の遵守状況を常に確認
8.証拠書類の保管: 支給申請に必要な証拠書類を確実に保管
9.制度理解の深化: 助成金制度の基本的な仕組みを理解
10.リスク管理: 想定される問題への対処方法を事前に準備
助成金は企業の成長と従業員の福祉向上を支援する重要な制度です。適切な準備と対策により、これらの支援を確実に受けられるよう、計画的に取り組むことが重要です。
13.助成金申請成功のためのチェックリスト
13-1.申請前チェック項目
基本要件の確認
– [ ] 助成金の対象要件を満たしているか
– [ ] 申請期限を正確に把握しているか
– [ ] 必要な社内制度が整備されているか
– [ ] 労働関係法令を遵守しているか
書類準備の確認
– [ ] 必要書類一覧を作成したか
– [ ] 各書類の記載内容を確認したか
– [ ] 書類間の整合性を確認したか
– [ ] 複数人による書類チェックを実施したか
社内体制の確認
– [ ] 関係部署との連携体制を構築したか
– [ ] 担当者の役割分担を明確化したか
– [ ] 社内での情報共有を行ったか
– [ ] 必要に応じて専門家に相談したか
13-2.実施期間中チェック項目
進捗管理
– [ ] 月次での進捗確認を実施しているか
– [ ] 要件遵守状況を定期的に確認しているか
– [ ] 問題発生時の対応手順を明確化しているか
– [ ] 証拠書類を適切に保管しているか
継続的な監視
– [ ] 関係者との定期的な情報共有を行っているか
– [ ] 制度変更等の最新情報を収集しているか
– [ ] 必要に応じて計画の見直しを行っているか
13-3.支給申請時チェック項目
書類準備
– [ ] 支給申請に必要な書類を全て準備したか
– [ ] 証拠書類が十分に揃っているか
– [ ] 書類の記載内容に誤りはないか
– [ ] 提出期限を確認したか
最終確認
– [ ] 申請書類の最終チェックを実施したか
– [ ] 関係者による承認を得たか
– [ ] 提出方法を確認したか
– [ ] 控えの保管を行ったか
このチェックリストを活用することで、助成金申請の成功確率を大幅に向上させることができます。各項目を確実に実行し、計画的に助成金申請を進めてください。