助成金申請のタイミングで気をつけたいこと
「助成金の申請をしたいけれど、いつ申請すればいいのかわからない」「取り組みを始めてから申請が間に合わないことがわかった」「年度末になって慌てて申請したけれど、書類が間に合わなかった」このような経験をされた中小企業の人事担当者の方は決して少なくありません。
助成金申請において、タイミングは成功の可否を左右する最も重要な要素の一つです。厚生労働省の統計によると、助成金申請の約25%がタイミングの問題により受理されていないのが現実です。特に、計画書の提出を怠ったり、申請期限を過ぎてしまったりするケースが多く見られます。
この記事では、助成金申請のタイミングで失敗しないための具体的な方法を、年間スケジュールから準備期間、よくある失敗事例まで詳しく解説いたします。初めて助成金申請を検討している人事担当者の方でも、この記事を読むことで適切なタイミングで申請を進められるようになるでしょう。
【目次】
1. 助成金申請の年間スケジュールと最適なタイミング
1-1. 助成金制度の年間サイクルを理解する
助成金制度は、国の予算編成に連動して年間を通じて一定のサイクルで運用されています。このサイクルを理解することが、最適な申請タイミングを見極める第一歩となります。
毎年4月から翌年3月までの年度単位で予算が組まれており、多くの助成金制度がこの期間に沿って運用されています。4月の新年度開始時には、前年度からの制度変更や新規制度の開始が発表され、助成金の内容や要件が更新されることが一般的です。
特に注意すべきは、人気の高い助成金制度では年度途中で予算上限に達し、申請受付が停止される場合があることです。例えば、キャリアアップ助成金や人材開発支援助成金などの主要な助成金では、例年10月から12月頃に予算の消化が進み、申請が困難になるケースが見られます。
1-2. 月別の申請タイミングの特徴
助成金申請には、月別に異なる特徴があります。この特徴を理解することで、より戦略的な申請タイミングを選択できるようになります。
4月から6月は新年度の開始時期であり、多くの企業が人事戦略の見直しを行う時期です。この時期は助成金の予算も潤沢で、申請が受理される可能性が高くなります。また、新卒採用や人事制度の改定に合わせて助成金活用を検討する企業も多く、計画的な申請が可能な時期でもあります。
7月から9月は、上半期の実績を踏まえた下半期の計画策定時期です。この時期に申請を行う企業は比較的少なく、審査もスムーズに進む傾向があります。ただし、一部の助成金では夏季休暇の影響で審査が遅れる場合もあるため、注意が必要です。
10月から12月は、年度末を見据えた駆け込み申請が増加する時期です。この時期は申請件数が多くなり、審査に時間がかかる場合があります。また、人気の助成金では予算の残額が少なくなり、申請が困難になることも多いため、できるだけ早めの申請が推奨されます。
1月から3月は年度末の時期であり、多くの助成金で申請期限が設定されています。この時期は書類の準備に十分な時間を確保することが困難になりがちで、申請の質も下がる傾向があります。
1-3. 助成金種類別の最適な申請時期
助成金の種類によって、最適な申請時期は異なります。雇用関係助成金では、採用計画や研修計画に合わせた申請タイミングが重要になります。
キャリアアップ助成金のような正社員転換を支援する助成金では、転換のタイミングが重要です。多くの企業で正社員転換が行われる4月や10月に合わせて、3ヶ月から6ヶ月前に計画書を提出することが効果的です。この時期に申請することで、予算の確保と適切な準備期間の両方を確保できます。
人材開発支援助成金のような研修支援の助成金では、研修の実施時期を逆算して申請時期を決定する必要があります。研修実施の1ヶ月前までに計画書を提出する必要があるため、研修の企画段階から助成金活用を検討することが重要です。
2. 申請前の準備期間と必要な手続き
2-1. 計画書提出までの準備期間
助成金申請で最も重要なのは、取り組みを開始する前に計画書を提出し、認定を受けることです。この準備期間を適切に設定することが、申請成功の鍵となります。
一般的に、計画書の作成から提出までには最低でも1ヶ月から2ヶ月の期間が必要です。この期間には、助成金制度の調査、自社の現状分析、具体的な取り組み内容の検討、必要書類の準備などが含まれます。
特に重要なのは、就業規則の見直しと改定です。多くの助成金では、労働条件や福利厚生制度に関する就業規則の整備が要件となっています。就業規則の改定には、従業員への周知期間として最低1ヶ月、労働基準監督署への届出手続きに1週間から2週間程度が必要です。
2-2. 社内調整と承認プロセス
助成金申請には、社内での調整と承認が必要不可欠です。この過程で時間がかかることを想定し、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。
経営層への説明と承認には、助成金の概要、取り組み内容、期待される効果、必要な予算などを明確に示す必要があります。この準備には1週間から2週間程度の時間を見込んでおくことが適切です。
また、助成金の取り組みに関係する部署との調整も重要です。研修実施であれば研修担当部署、雇用関係であれば採用担当部署など、複数の部署が関与する場合が多いため、事前の調整時間を十分に確保する必要があります。
2-3. 必要書類の準備期間
助成金申請には多くの書類が必要となり、その準備には相当な時間がかかります。書類の種類によって準備期間が異なるため、それぞれの特徴を理解しておくことが重要です。
会社の基本情報に関する書類(登記簿謄本、定款、会社案内など)は比較的短期間で準備できますが、労務管理に関する書類(賃金台帳、出勤簿、雇用契約書など)は日頃の管理状況によって準備期間が大きく変わります。
特に注意が必要なのは、過去の雇用状況や賃金支払い状況を証明する書類です。これらの書類は過去数ヶ月分の提出が求められることが多く、記録が不十分な場合は書類の再作成が必要になることもあります。
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助成金申請に必要な書類を完全ガイド
3. タイミングを逃さないための具体的な対策
3-1. 年間計画の策定と情報収集体制の構築
助成金申請のタイミングを逃さないためには、年間を通じた計画的な取り組みが必要です。毎年1月から2月頃に、その年度の助成金活用計画を策定することが効果的です。
この計画策定では、自社の人事戦略と連動した助成金活用の方向性を明確にします。新卒採用の拡大、中途採用の強化、従業員の研修充実、働き方改革の推進など、具体的な取り組み内容に応じて活用可能な助成金を整理します。
情報収集体制の構築も重要な要素です。厚生労働省のウェブサイトや労働局の情報を定期的にチェックし、制度変更や新規制度の情報を素早く把握できる体制を整えます。月に1回程度の頻度で情報収集を行い、関連する助成金制度の動向を把握することが推奨されます。
3-2. 社内カレンダーの活用と期限管理
助成金申請の各種期限を確実に管理するために、社内カレンダーシステムを活用した期限管理を行います。計画書の提出期限、取り組みの開始時期、支給申請の期限など、すべての重要な日程をカレンダーに記録し、関係者間で共有します。
期限の2週間前と1週間前にはリマインダーを設定し、準備状況の確認を行います。これにより、書類の不備や準備の遅れを早期に発見し、対策を講じることができます。
また、助成金制度の変更や新規制度の開始時期も合わせて管理します。例年4月の新年度開始時には制度変更が多いため、3月中に最新情報の確認を行い、必要に応じて計画の見直しを行います。
3-3. 外部専門家との連携体制
助成金申請のタイミングを適切に把握するために、社会保険労務士などの外部専門家との連携体制を構築することも効果的です。専門家は助成金制度の最新動向や申請のポイントを熟知しており、適切なタイミングでのアドバイスを提供できます。
顧問契約を結んでいる場合は、定期的な情報提供や相談の機会を設けることが重要です。助成金制度の変更や新規制度の情報を早期に入手し、自社にとって有利な申請タイミングを見極めることができます。
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顧問社労士と専門家、どちらに頼るべき?
4. よくあるタイミングミスと回避方法
4-1. 取り組み開始後の計画書提出
助成金申請で最も多い失敗の一つが、取り組みを開始してから計画書を提出しようとするケースです。多くの助成金制度では、計画書の提出と認定が取り組み開始の前提条件となっており、この順序を間違えると助成金を受給できません。
この失敗を回避するためには、助成金制度の要件を正確に理解し、計画書提出の必要性を事前に確認することが重要です。特に、研修の実施や新規雇用、制度改定などを行う際には、必ず助成金制度の要件を確認し、必要に応じて計画書を提出してから取り組みを開始します。
また、取り組みの開始時期を柔軟に調整することも有効です。助成金の活用を検討している場合は、取り組みの開始時期を1ヶ月から2ヶ月遅らせることで、適切な手続きを踏んでから取り組みを開始できます。
4-2. 申請期限の見落とし
助成金には様々な期限が設定されており、これらの期限を見落とすことで申請機会を逃すケースが多く見られます。計画書の提出期限、支給申請の期限、報告書の提出期限など、それぞれの期限を正確に把握し、管理することが重要です。
期限の見落としを防ぐためには、申請時に期限の一覧表を作成し、それぞれの期限を明確に把握することが効果的です。また、期限の1ヶ月前と2週間前には準備状況を確認し、必要に応じて準備のペースを調整します。
特に注意が必要なのは、年度末の3月に設定されている期限です。この時期は他の業務も繁忙になることが多く、助成金関連の準備が後回しになりがちです。年度の早い段階から準備を進め、余裕を持って申請できるよう計画を立てることが重要です。
4-3. 予算枯渇による申請停止
人気の高い助成金制度では、年度途中で予算の上限に達し、申請受付が停止される場合があります。この問題を回避するためには、年度の早い段階での申請を心がけることが重要です。
予算枯渇のリスクが高い助成金については、過去の実績や傾向を調査し、申請停止の時期を予測することが有効です。例えば、前年度に11月頃に申請停止になった助成金については、当年度は9月頃までに申請を完了させることを目標とします。
また、複数の助成金制度を検討し、一つの制度に依存しないリスク分散も重要です。メインの助成金制度で申請停止になった場合でも、代替の制度を活用できるよう準備しておくことが推奨されます。
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助成金申請でよくある失敗10選
5. 助成金申請を成功させるための実践的なスケジュール管理
5-1. 6ヶ月前からの準備計画
助成金申請を確実に成功させるためには、実際の申請から6ヶ月前からの準備が理想的です。この時期には、自社の人事戦略の見直しと助成金制度の調査を並行して進めます。
まず、自社の現状分析と課題の明確化を行います。従業員の定着率、スキル水準、労働環境の問題点などを数値化し、改善すべき点を明確にします。この分析結果をもとに、どのような助成金制度が活用可能かを検討します。
次に、候補となる助成金制度の詳細な調査を行います。支給要件、申請手続き、必要書類、支給額などを詳細に調査し、自社の状況と照らし合わせて実現可能性を検討します。複数の制度を比較検討し、最も適切な制度を選定します。
5-2. 3ヶ月前からの本格的な準備
助成金申請の3ヶ月前からは、本格的な準備を開始します。この時期には、計画書の作成と必要書類の準備を並行して進めます。
計画書の作成では、取り組みの目的、内容、期待される効果、実施体制、スケジュールなどを具体的に記載します。助成金制度の趣旨に沿った内容となるよう、制度の目的と自社の取り組みを明確に関連付けます。
必要書類の準備では、就業規則の改定、労働契約書の見直し、勤怠管理システムの整備などを行います。特に就業規則の改定は労働基準監督署への届出が必要なため、早めの着手が重要です。
5-3. 1ヶ月前の最終確認と調整
助成金申請の1ヶ月前には、最終的な確認と調整を行います。この時期には、書類の完成度を高め、申請の準備を完了させます。
計画書の最終確認では、記載内容の正確性と一貫性を確認します。他の提出書類との整合性もチェックし、矛盾がないことを確認します。必要に応じて、社会保険労務士などの専門家によるチェックを受けることも効果的です。
また、申請後の手続きについても確認します。計画書の認定後の取り組み開始時期、支給申請の時期、必要な報告書の作成など、申請後のスケジュールを明確にし、関係者間で共有します。
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6. まとめ:計画的な準備で確実な助成金受給を実現
助成金申請において、適切なタイミングでの申請は成功の可否を決定する重要な要素です。年間を通じた計画的な準備と、制度の変更や期限を正確に把握することが、申請成功の鍵となります。
最も重要なのは、取り組みを開始する前に必要な手続きを完了させることです。計画書の提出、就業規則の改定、社内体制の整備など、すべての準備を適切なタイミングで行うことが必要です。
また、助成金制度の動向を常に把握し、予算枯渇や制度変更などのリスクに対応できる体制を整えることも重要です。複数の制度を検討し、状況に応じて柔軟に対応できる準備をしておくことが推奨されます。
助成金申請のタイミングを適切に管理することで、企業の人材投資や職場環境改善を効果的に進めることができます。この記事で紹介した方法を参考に、計画的な助成金活用を実現していただければと思います。
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